「数字だけ見てる」管理職にチームは作れない
数字と正論は得意だが、人を見ない管理職
仕事柄、いろいろな企業にお邪魔するのですが、ある会社さんで興味深い話を耳にしました。
「数字は得意なんだけど、人の感情っていうものを分かってない」
社長さんが、自社の中堅マネージャーについてそうぼやいていました。そのマネージャーはIT企業からの中途入社で、元マーケター。データ分析や戦術の組み立てが得意で、ロジカルな思考を好むタイプとのこと。
データを活用した営業活動をやっていきたいと考えていた社長さんは、まさにピッタリということでその人を営業チームの管理職として迎えます。
確かにデータの扱いはお手のもので、定量的に現状を分析し、理路整然とチームや個人の課題・ボトルネックを洗い出してくれました。
問題の指摘だけでは人は動かない
ここまでは良かったのですが、問題はそのあと。
部下である営業メンバーたちに対して、指摘、指摘、指摘。対面の会議や1対1のいわゆる1on1ではなく、社内チャット上で、文章で個々人の課題を指摘し、「フィードバック」と称して、重箱のすみをつつくようなミスの注意を細かく繰り返していったそうです。
言っていることは基本的に正しい。これまで社内で実施されていなかったデータ分析によって、現状はロジカルに整理され、どこに営業の問題(ボトルネック)があるかも見える化された。その点はこのマネージャーの大きな功績でしょう。
しかしやり方は、大間違い。後から入ってきたマネージャーにチクチクと細かいことを日々指摘され、とくに社内チャットで他の人からも見える形で「フィードバック」され続けては、既存のメンバーのモチベーションが上がるはずもない。
「モチベーションなんて必要ない。大切なのは仕組み」という説を最近はよく聞きます。仕組みが重要であるのは否定しませんが、私たちは感情を持った人間であり、その人間の集合体が、チーム、ひいては会社を作っています。
「おっしゃ、今日も1日がんばるぞ!絶対に絶対に絶対に契約とったるぞ!!」みたいな燃えるようなモチベーションは必ずしも必要ないかもしれませんが(あるに越したことはない)、
かと言って、わざわざ人のモチベーションを下げるような指摘を日々くり返すのは、これは生産的な行為とは言えません。とくに、お客様との密なコミュニケーションを日常業務とする営業メンバーにとっては、やはりモチベーションは必要です。少なくともネガティブな感情のない、平静な心持ちでいることが望ましいでしょう。
にもかかわらず、社内の、あろうことか上司であるマネージャーが、メンバーの心持ちをいたずらに下げてネガティブにしてしまっている。これは致命的なミスと言えます。
数字と人間。データと感情のバランス
組織である以上、常に目標に向かって改善活動が求められます。したがって、現状を把握し、課題を特定し、改善のために指摘やサポートを繰り返していくのは、これは管理職として正しい姿です。
一方で、「正論で指摘すれば部下が動くなら、マネジメントなんて要らない」のも事実。チームを動かすというのは、そんな簡単で平坦なものではない。
私たちは、感情を持った人間を相手にしているのですから。
ミスを指摘するにしても、どんなシーンで、どんな形で伝えるのが良いだろうか。最近ちょっと言い過ぎだから、今回のポカは見逃してあげるかな。まだまだ求める基準には程遠いが、以前よりは良くなってきてるし、明日の会議では皆の前でしっかり褒めてあげよう。
ネガティブな指摘ばかりが続くことがないよう、少しでも良い点を見つけ、そこを褒めてバランスを取る。フィードバックしたいことが10個あっても、全てを詰め込んで伝えるのではなく、本当に大事な3つに絞って、言い方を工夫しながら伝える。
優秀なマネージャーは、常にこうしたことに気を配り、相手の人間感情に配慮しながら、コミュニケーションをしています。
冒頭のマネージャーさんは、「相手が感情を持った人間である」という前提をまずしっかりと理解すべきでした。そんなこと言われなくても分かってると思いがちですが、データという数字から判断して正論で指摘するという流れの中には一見して「間違い」が見当たらないので、分析が得意な人ほどこの罠に陥りがちです。
ChatGPTやGeminiなどの生成AIの進化によって、ロジカルな分析の難易度はどんどん下がっていくでしょう。組織の現状を整理して問題点を洗い出す作業は、早晩AIが自動でやってくれるようになるかもしれません。
それでも、そこから先は自動にはならない。問題を理解し、実行するには人間だからです。ゆくゆくはそこもAIが担うようになる可能性もゼロではありませんが、今のところ、営業のような現場仕事は人間の領域です。
だから、人間の感情を軽視してはいけない。人と人のコミュニケーションを甘く見てはならない。数字を並べ立てて正論を吐くだけでは、人もチームも動いてはくれないのです。
数字と人の間で葛藤し、ああ難しいなぁ、厄介だなぁと頭を抱える。そんな状況をぼやきながらも楽しめるマネージャーこそ、真のリーダーなのだと思います。
本日は以上になります。
株式会社FooLaiBo
三浦 隼