AIエージェントを中小企業で使うには|最初の仕事選びと「引き継ぎ」の準備
セミナーでの質問が、変わってきた
先日、東京商工会議所 中央支部 青年部さんで、生成AIの実践講座をさせていただきました。
経営者の方々を中心に、約30名の方が参加してくださいました。
質問がたくさん出た、ありがたい会でした。
ただ。
その質問の中身が、少し前とは変わってきていたんです。
今回は、そこから考えた「AIエージェントを中小企業で使うには」について述べたいと思います。
先に結論を書くと、
AIエージェントに仕事を任せる準備は、新人に仕事を引き継ぐ準備に似ている。
ここを押さえておくと、何から始めればいいかが見えてくるのではないかと思っています。
「どのAIを使うか」から「どうつなぐか」へ
春ごろまで、セミナーでよく聞かれたのは、
・どのAIを使えばいいのか
・どんな業務に使えるのか
・有料版と無料版は何が違うのか
といった質問でした。
それが今回は、こんな質問が出ました。
・ChatGPTとClaudeのあいだで、データを共有できないか
・社外のデータベースに、AIからアクセスできないか
「AIに何を聞くか」だけでなく、「AIを会社のデータや仕事の流れに、どうつなぐか」へ。
関心が、一段先に進んでいると感じました。
こうした質問をきっかけに、私自身もSalesforceとの連携や、コネクター、MCPといった仕組みを、あらためて整理することになりました。
実は今回の講座では、難易度や時間配分を考え、AIエージェントの話を割愛していました。
ところが、当日の質問に加えて、アンケートにもAIエージェントについて詳しく知りたいという声がありました。
私が思っていた以上に、関心を持っている方がいらっしゃったんですね。
AIエージェントとは、仕事の担当を任せられるAI
あらためて、AIエージェントとは何か。
チャットでAIに一つずつ指示して、答えをもらう。
これは、すでに使っている方も多いと思います。
それに対してAIエージェントは、目的を伝えると、必要な手順や道具を選びながら、調べる・まとめる・資料にするといった一連の作業を進めてくれるものです。
一言でいえば、「作業を頼む」から「担当を任せる」へ。
もちろん、何でも丸投げできるわけではありません。使える情報や機能、任せてよい範囲によって、できることは変わります。
ChatGPTのdots(ドッツ)のように、会話していない間も調べものを進めてくれるものも出てきました。
ChatGPTの「dots」。AIに仕事の担当を任せる時代へ
ただ、機能が増えるほど、
「で、うちは何を任せればいいの?」
が分かりにくくなる。
ここで止まっている経営者の方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
最初に任せるなら、毎週くり返す「集めて、まとめる」仕事
最初に候補にしたいのは、こういう仕事です。
・毎週か毎月、くり返し発生する
・あちこちから情報を集めて、一つにまとめている
・結果を人が確認しやすい
・最終判断は人がする
例えば、こんな依頼です。
「先週の問い合わせを一覧にして。返事が止まっているものには印をつけて」
「今月の見積の状況をまとめて。記録されている受注・失注・保留の区分で整理し、保留が長いものを教えて」
「来週の商談相手について調べて、前回のやり取りと合わせて一枚にまとめて」
どれも、人がやると地味に時間がかかります。
そして、忙しい週ほど後回しになる仕事です。
もちろん、この一言だけで、どのAIでもすぐにできるわけではありません。必要な情報を渡したり、対応するサービスとの連携を設定したりする準備は必要です。
一方で、見積金額を決める。納期を約束する。お客様へのメールを送信する。
最初の段階では、こうした判断や実行は人に残しておきます。
まとめるまではAI、決めるのは人。
この線を最初に引いておくと、試しやすいと思います。
いきなり「毎週やっておいて」と任せるのではなく、まずは一回分だけ。人が結果を確かめて、問題なければ、定期的に任せる方法を考えていく。
そのくらいの始め方で十分です。
AIエージェントに任せる前に、引き継ぎの準備をする
ここからが、今回いちばん書きたかったことです。
セミナーで出た「データを共有したい」「AIからアクセスさせたい」という質問。
コネクターやMCPは、AIと外部のデータや道具をつなぐための仕組みです。対応しているサービスや権限の範囲で、こうした連携ができるようになってきています。
ただ、業務改善の現場を見ていると、つなぐ以前のところで止まっていることが多いんです。
・最新の見積書が、どのフォルダにあるのか分からない
・顧客の情報が、担当者ごとのExcelに散らばっている
・変更の連絡は、口頭や電話で済ませている
・「あの件は○○さんに聞かないと分からない」が、社内にいくつもある
ところで。
新しく入った社員に、「これ、まとめておいて」と頼んだとします。
資料の場所が分からない。どれが最新版か分からない。経緯は前任者の頭の中にしかない。
これでは、どんなに優秀な人でも手が止まりますね。
AIエージェントに任せるときも、似たことが起きます。
なので、最初に整えたいのは、次のようなことです。
・その仕事では、どの情報を見ればよいかを決める
・何が最新版か、分かるようにする
・頭の中や口頭で済ませていることを、少しでも文字に残す
・何を、いつまでに、どんな形でまとめてほしいかを決める
・見てよい情報と、勝手に変更・送信してはいけないことを決める
要するに、引き継ぎ書が書ける状態にしておくことです。
例えば、問い合わせをまとめてもらうなら、
「この一覧を見て、会社名・問い合わせ内容・最終返信日をまとめてほしい。記録がなければ『不明』と書く。元のデータは変更しない。お客様への返信もしない」
ここまで言えれば、任せる仕事がずいぶん具体的になります。
社内の情報を全部、一つの場所へ引っ越す必要はありません。
まずは、今回任せたい一つの仕事について、必要な情報とルールをそろえる。
Google Workspaceでも、Microsoft 365でも、この考え方は変わりません。
そしてこれは、ツールの設定だけの話でもないんです。
書き残す時間がなかったり、何を残せばよいか決まっていなかったりする。そうした業務の進め方も、少しずつ整える必要があります。
だからこそ、いきなり全社でやろうとせず、一つの仕事から始めるのがいいと思っています。
地味ですが、ここが整っていないと、せっかくの機能も生かしにくい。
ファイルや台帳の整え方は、こちらに書きました。
毎回AIエージェントを動かさなくてもいい
もう一つ、セミナーの準備をしながら整理できたことがあります。
私が普段お手伝いしている流れは、だいたいこうです。
- 業務を見える化する
- 小さく試す
- 仕組み化する
- 現場に定着させる
このうち3の仕組み化では、毎回AIを動かすとは限らないんです。
例えば、毎月同じ形式で集計する作業。
これは、AIにExcelの関数やGoogleのApps Scriptを書いてもらい、動作を確認したうえで、あとは普通の仕組みとして動かす方法もあります。
手順が決まっているなら、その都度AIに考えさせるより、結果を安定させやすい。変更があったときの修正や、異常がないかの確認は必要ですが。
・情報を読み比べたり、状況に応じて調べ方を変えたりする仕事は、AIエージェントを使う
・毎回同じ手順の仕事は、関数やプログラムなどで仕組みにする。その作成をAIに手伝ってもらう
・そもそも件数が少ない仕事は、無理に自動化しない
この使い分けが、中小企業では現実的なのではないかと思っています。
新しい機能が出るたびに、全部使う必要はありません。
目的は、AIエージェントを使うことではなく、仕事をよくすることなので。
「この業務にはAIは入れない」と決めることも、大事な判断です。
AI導入前に決めておきたいことは、こちらにもまとめています。
AI導入前にやるべきこと|48人で試して分かった、決めるべき3つのこと
AIに聞くだけでなく、AIに仕事を任せられる場面が増えてきました。
でも、任せる前に、まず引き継ぎの準備から。
毎週くり返している「集めて、まとめる」仕事を一つ選び、何を見て、どんな形にまとめて、どこで人に確認してほしいかを書いてみる。
最初の一歩は、そこからでいいと思います。
本日は以上になります。
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